女は、好きという気持ちが、捨てられると、
  三倍にも四倍にも強い憎しみに変わるものです。


  捨てられた女は、どこまでも男を追った。
  男は、もう大分離れた場所に至ろうとしていたが、それでも女は走った。
  情念。性の薄皮がはじけ、怒り悲しみ愛が、女の感情の中で混沌を成していた。
  もはや、冷静な思考は露ほどにも存在しなかった。


相沢は、ここでペンを止め、三年前に別れた女を思い出した。大学の先輩だった。自分のことを好いてくれる人がいるということが、素直に嬉しくて付き合いだした。小柄なその人とは、半年遊んだ。
半年後、相沢から女を振った。唯、女には、熱が冷めたとだけ言った。本当の理由は言えなかった。本当の理由、それは、女と肉体的な関係を持ちたくなり、それを女に拒否されたからだった。「もう少し待って」と女は言った。相沢は、気が狂いそうになった。待つくらいなら辞めたいと思い、それだけで振った。自分でも最低だと思った。


相沢は、自分の胸で泣いたその女の体温を今でも覚えている。
時々思い出す。その度に、女には済まないことをしたと思う。