夕方の影は、既に長い。
相沢の部屋の窓からは、それでも陽が何に遮られることもなく差し込んできた。本棚の写真立てには、今もその人と並んで撮った卒業記念パーティーの写真がある。写真の中で相沢は笑っている。彼女も笑っている。しかし、今それを見る相沢の眼には、もはや単なる写真としてしか存在しない。

相沢は、恋愛に対しては淡泊でありたいと思っていた。自分は常に受け皿のようなもので、決して自ら求めて人の中に入り込もうとはしまいと決めていた。それもこれも、人を求めるようになれば、結局最後は情欲に辿り着くと信じていたからであった。よほど、過去のただ一度の恋愛の結末に懲りていた。

だから、この度の連絡に対しても、努めて淡泊な返信をしてそれで終わりとした。その返信すら次の日にはもはや履歴から消した。同時に、過去に遡ってすべてのやり取りの跡を消した。そのとき200あった送信の数が100以下になったことには、気づかなかった。

大丈夫、自分は傷ついていないと思うようにした。「好きな映画や小説や能を観てさえいれば、自分は自分でいられる。」

次の日の朝、いつもの電車で会社に行き、一日業務をこなした。
ただ少し、常より疲れて帰途に就いた。