今も覚えている。
八幡掘沿いの小道を歩いているとき、少しぬかるんだ道で、湿った土に、履いていた踵のやや高いミュールを取られていた。前を歩いていた私がふと振り向いたとき、足の指先についた泥を、少しかかんでハンカチで拭っていた。そうしている姿は、上品で、可憐だった。
その日の日中は、風さえも吹かなかった。あまりに暑かったので、川縁の店に入ってかき氷を食べた。これが相沢から彼女への初めてのご馳走で、それをとても喜んでくれた。