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「待つ。あの日、私は待つことができた。それは、信じることができたから。…何を?私は、何を信じたのだろう?あの時、私は何を信じていたのだろう?」
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女がいる。女は、手に花を持っている。それを、井戸の前に供え、静かに祈りをはじめた。若く、美しい女だ。私は女に話しかける。お前は誰か、と。

「昔、ここに仲の良い男の子と女の子がいました。いつも一緒で、よく互いの背を比べて、先に大きくなることを競いあっていました。二人で拾い集めた小石を井戸の底に落とし、その響きに耳を澄ませるのは特に楽しいものでした」
「としつきを経て、女の子の髪が十分に伸びた頃、その頃にはもう子供ではなく一人の美しい女性でした。男から想いを伝え、女の方でも同じ想いを抱いていました。その時から友達は恋人になったのです」
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ある秋の晩、その日も、男は女に何も告げず家を出た。女もまた、いつものように気付かない顔で夫の背中を見送った。それは、月の、殊に明るい夜であった。