「いつものことだと平気になりたかった」

そのとき、女はアパートの2階の窓辺から街灯に照らされた外を見ていた。夫が玄関のドアをを閉めるかすかな音が聞こえた。自分に知られまいと、そっと閉めているのがよくわかった。この夜の明かりに照らし出されるように、女には、自分を取り巻く状況を痛いほど分かっていた。ほの明るい光の下から、暗闇の外に消えて行く夫の背中はまるく、小さかった。道端の銀杏の葉が風になびいていた。

「自分は、もはや、夫に愛されてはいないのか」