***
でも、今はまた幸福なのです。ずっと続くのです。今では、私はいつでも夫に会うことができるから。こうして、月の明るい晩に井戸を覗きこめば、そこには夫がいる。私に向って、笑いかけてくれる。だから私は、この井戸のそばを決して離れない。
     ***
それは、結婚から三年も経たない頃から始まった。夫は、何かに思い煩うようになった。会社が終わって、遅くに帰ることが多くなった。お酒を飲むようになったのも同じ時期のことで、女の元を訪ねるようになったのも、この頃からだと思う。はじめは週に一度くらいから、段々、最後には三日と行かない日はなかった。
人の妻として辛い事、それは、夫が悩みを打ち明けてくれない事、自分以外の女になら何でも話す事が出来ても、自分には、同じ苦しみを共有したいのに、夫は、私を見るとさびしく微笑み、「大丈夫、君は安心していいんだ」といつも言った。その夫の微笑みが、私には殊に辛かった。