「そう」
なぜ、みずから苦しむのか。
「最近、多いのね。」
「…」
「ねぇ、ここしばらく、とても良い天気が続くわ。いつのまにか秋になって、町はキンモクセイの香りで一杯、時々、家の中にも流れてくる。でも、こんな時に、あなたはなんだかとっても辛そう」
「…」
「そうだ、お昼は食べるんでしょう?」
「うん。でも、簡単に食べられるものがいいな」
「おうどんとか?」
「そう、それがいい」
     ***
昼食後、食器を洗っている私に、お茶を飲みながらテーブルで新聞を読んでいる夫が提案した。午後、どこかに出かけないか。
「どこかって、行きたいところがあるの?」
「別に、ただ、こんなに天気がいいから」
私にはわかる。無理している。
「いや?」
「そうじゃないけど」
「じゃ、行こう。もったいないよ」
「…わかった。でも、ちょっと、待っててね。すぐ終えるから」
「ううん、急がないでいいよ。時間はまだこんなにあるから」
午後一時。爽やかな秋空が広がっている。