私達は、久しぶりに再会したが、それは、本当に久しぶりであるにもかかわらず、昨日からの連続の出来事であるかのように思えた。そして、その昨日、私達は、笑いあって別れたような、そんな、別れであった。実際、今、何も思うところなく、私は笑い、彼女も笑っている。それははじけるような笑いではないが、はにかむような、優しい笑いだった。
「あなた、太った?」
「少し、ね」
「私は痩せたわ」
「うん。それに、髪が長くなった」
並んで歩く。こんなことも久しぶりとは思えない。昨日、私達は大学を歩いていた、そうとしか、感じられない。街灯りは、まばゆいほどに明るい。うす曇りの夜空に、とりどりの光が、ぼんやりと滲む。大きな通りの両側は、まるで夢のようだ。音もなく、匂いもなく。ただ、この場面だけがある。しかし、これは夢でなく、現実の今、こうして彼女がいる。二年前に、泣いてさよならと言った、彼女が。
「相変わらず、姿勢いいのね」
「うん。よく言われる」
「今まで会ったなかで、あなたほど姿勢のいい人っていないわよ」
「何も意識してないんだけどねぇ」
「そう、いつもそう。あなたは、何も意識してなかったわ」
「…」
秋。彼女の着ているコートの下の、スカートの、下から、スラリと伸びた彼女の足が見える。踵の高い靴からは、コツコツと、心地よい響きがする。ここの通りの舗装は特別で、冷たい夜気のなかで、その音だけが、聞こえてくる。不思議と周りの音が耳に入らない。こんなにたくさんの人が歩いているのに、ここには、私と彼女しかいない。
それ以外は、夢だ。
すべてが、過ぎ去っていった。私の中の、大切な部分が、世界の終りに向って、流れて行った。私達の住む世界は平らで、世界の果てには、何もない茫漠とした平野が広がっている、そこが世界の終りだと、そう感じていた時期に、彼女と出会った。向こうから話しかけてくれた。会う度に、ほっとできた。会う度に、話をしたかった。私の話を聞いてくれるのは、いつも、彼女だけだった。この世界の終りで、私と彼女だけしか存在しなくとも、生きていけると、そう思っていた。
この町に入ってから、五つ目の交差点を右に折れ、一件の店に入った。久しぶりに彼女と話すなら、ここを措いて他にないから。扉をあけ、狭い階段を降りる…。