多くを振り払って生きてきた。顧みなかったものの中には、きっと、大切なものもあったのだろう。そうして、人を悲しませたのかもしれない。でも、そうしなければたどりつけない真実があったと、そう、頑なに信じていた。
人と交わることは負けだと思っていた。自分だけの王国を、強固なものにしたかった。すべてを遠ざけ、この世界を囲む城壁を、厚く、高いものにしていった。気づいた時には、外から誰も入れなくなったばかりか、自分自身も外に出られないようになっていた。
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その場所から見える空は、いつも灰色だった。時々、黒い鳥が1羽、群れをなさずに飛んで行くのが見えた。相沢の青春は、この厚く高い壁の中から、灰色の空を眺めているうちに過ぎていこうとしていた。
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やがて、大学卒業の年になった。もう限界だった。ダメになりかけた。人と生きていけるかの崖っぷち、でも、そんな時こそ外への門はそっと開いていた。しかしそのことに、自分では気づかなかった。相沢に、それを告げてくれたのは彼女だった。
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「ねぇ、あなた、いつも何読んでるの?」