町に出よう。
何の目的もなしに、町を歩いて、疲れたら喫茶店に入ろう。喫茶店で、大好きな小説を読もう。買い物なんかしなくとも、とにかく、町に出よう…。
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洗濯物の量は多くなかった。それから、風呂掃除をし、少しだけ部屋に掃除機をかけた。天気予報では、今夜は雨だそうだ。降水確率は60パーセント。今は、こんなにも晴れていて暖かいというのに。
洗濯物を、ベランダのなるべく屋根下の奥に移す。
傘を持って、外に出た。駅までまっすぐ行けばすごく近いのだけど、喫茶店の横を通りたかったので少し遠回りする。その喫茶店で、マスターのお爺さんが淹れてくれるコーヒーは、本当に熱くて、そして、とても美味しい。先にカップだけ席に持ってきてくれて、コーヒーが出来てから、目の前でサイフォンからカップに注いでくれる。香りが部屋いっぱいに広がる。越してきた当初から、こんなに素敵な喫茶店のある町に住めることが、とても嬉しかった。
茶店の横を通る時、窓から店内を見たけど、今は誰もお客さんがいないようだった。
駅から電車で。今日は、この間とは反対の方向へ行く。この時間の電車は、もうそれほど混んではいない。ちらほらと、空いた席もある。私はドア際に立って、ずっと、外を見ていた。
二駅で、夫の会社のある町に着く。夫の会社のビルも見える。何の変哲もない、普通のオフィスビル。今頃、どんな顔して働いているのだろうか。すぐ、ビルは見えなくなった。見えたのは少しの間だけだった。太陽が眩しい。