こんな目をしている人を、他にも、私は知っているように思った。でも、誰だかは思い出せない。それは、遠い過去からの記憶のようだった。
     ***
「私も、この絵の続きを想像しています。でも、見えない…」
画家は、そう呟いたようだった。小さな声だった。最初、私にはそれが意味のある言葉として発せられたとは思えなかった。でも、なぜか強く引っかかるものがあった。
「この絵を描いたのはあなたなのに…」
「えぇ。でも、私はこの絵を描いたときも、何かが私に宿っていて、連続する物語の、ある瞬間だけを、私に見せてくれて、描かせてくれたような気がするんです。今までもあった、これからも続く物語、その、ほんの一瞬…」
足の悪い女性は、窓の外に何かを見つめている。それは私にはわからない。でも、ここには一つの物語がある。画家は、私にそう告げた。絵に耳を澄ませてほしい、と。絵から何が見えてくるのか、もう一つの別の物語を感じてほしいと。
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そこにはずいぶん長い事いた。結局、最後まで誰も来なかった。それが私にはよかった。去り際、画家は、また来てくださいねと言って、名刺を渡してくれた。白い中に、明朝体で画家の名前のみ刷ってあった。もちろん聞いたこと無い名前だった。