皆、様々な方を向いていた。それぞれの対象に向きあい、そして、一心に自分たちの画に挑んでいた。
「自分だって、何か…」
ここでもまた同じ事を思う。いつも、言葉にならないだけで常に同じことを思っているのかもしれない。だが、思うだけで、そこから一歩先へ踏み出すことがどうやったってできそうにないとも思っている。そうしていつも、変わらない日常が繰り返される。
「何かを…」
何かを表現したい。この、自分に反響する世界の有様を。自分には、世界はこう見え、こう聞こえ、こうなっているのだと。それを書き表したいと思っている。
なぜ、彼らは筆を走らせ続けることが出来るのだろう?なぜ、彼らの筆は止まらないのだろう?
なぜ、自分にはそれが出来ないのだろう?
何が、彼らと自分で違っているのだろう。才能?そうかもしれない。でも、…。
つまらない事を考えるのはやめよう。少なくとも目の前の音楽はさっきからずっと鳴りやまないでいてくれるのだから。心地よい音に耳を澄まし、しばらくは何も考えたくない。