何の為に私は生きているのだろうか。
夢、という言葉がよぎる。しかし、その言葉は私の中で何らの響きも伝えてはこない。私は今、一人の生活者だ。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ、その日その日をやり過ごすだけで一杯だ。夫に対してすらも、ただ私から離れてくれるなとのみ願いながら生きているではないか。こんな私の、こんな生活のどこに、幸福なぞという文字を見出すことができるのだろう。
寂しい。たまらなく寂しい。
赤信号。待っている間、カラスが一羽、私の上を飛んでいった。ビルとビルの狭い間を、上手に飛んでいった。
それから歩いて間もなく、大通りに出ると視界が一気に広がった。目の前には、道路と堀の向こうに横一文字に延びる石垣がある。上へ上へとばかり伸びた建物に見慣れていたので、この横に広がるという感覚が、とても変なように思えた。そしてその感覚が、だんだんと安心感のようなものに変わっていった。これをつくった昔の人の、心意気の豊かさやおおらかさのようなものを感じた。
いいものだな、と思う。安心してしまう。
大通りを渡って堀端の歩道を歩くと、視界は一そう広くなる。堀を左にしてゆっくりと歩く。車は多いが、いま歩いているのは私一人だ。