優しかった夫の横顔。彼は何か言っている。
「僕は小説を書きたいんだ…」
唐突に思いだした。夫は小説を書きたかった。
ずいぶん長い事忘れていた。それに、結婚してしばらくしたら、そんなことを聞かなくなった。夫はそのことに関して何も言わなくなっていた。
でも、今思いだした。夫はそういう人だった。小説の事になると急に目がキラキラしだして、そうして、いつも夜遅くまで机に向って。私なんかお構いなしだった。