しかしそれで金を得ることが出来るのか。誰かの評価を得ることが出来るのか。書き続けることが許されるのか。そうしてそれよりも何よりも、相沢に、本当に、何か物語と言いきれる作品を創ることが出来るのか。まだなにも出来ていない。そして、もうすでに、やりもしない前から、まだやっていないことに心悩まされている。まだ、何もはじめていない。思うばかりで、とりかかるという事が出来ていない。
自分には何もない。
何も。
何も、だ。
ナ・ニ・モ。
それでも、それにも関わらず、思いばかりはとめどなく溢れる。強く。とにかく書きたいのだ。
コーヒーが来る。砂糖もミルクも入れずに飲む。飲みにくいなと思ったら、カップの縁が分厚い。
隣の席の会話が聞こえてくる。
「jがkjhごさhぐfshごんgjさんk?」
「jんじゃhぐhfn」
「fじさjkv!」
「あんjんfんv」
相沢には意味不明の会話だった。どうやら、株の話をしているようだが、詳しくはわからない。とにかく、若い男二人が、熱心に話しこんでいる。まぁ面白いのだろう。面白さは人それぞれで、他人がとやかく批評するものではない、特に、喫茶店のような場所では。
本を読もうと思って喫茶店に入ったのだが、思いのほかザワザワしているので、店を出ることにする。席を立つ時も、隣の二人は熱心な会話を続けていた。
外に出ると、すっかり、空が雲に覆われていた。