この街では、いつも行く店がある。小さな洋食屋で、店内はもっとこじんまりしている。一人、会計台のいすに座っており、いつ行っても、同じ調子で迎えてくれる、そのお婆さんとは一度も話したことはないが、優しそうな、いかにも「おばあちゃん」といった感じが、私は好きだった。
その店を目指して、雨の中を歩いている。皇居前広場の広いエリアに、松がたくさん植えられている。いつもは何気なく通り過ぎるのだけれど、今日は、何となく物凄いような感じだった。松達は、雨の中も立ち尽くしている。しっかりと、根を張って、芝生の中で立っている。何本も何本も、道路を隔てた高層ビル達に負けないくらい、仲間たちと頑張って立っている。
まっすぐなのも、曲がっているのも、とりどりの形だけれど、今日はなぜか、とても美しいと思った。何となくだけど、そんなことを思った。今度は晴れの日にちゃんと見よう。この広い空の下で、その時はきっと一面の青空で、もっともっと美しく見えることだろう。
通りを渡り、ビルとビルの間に吸い込まれていく。歩く。所詮私は人間の女で、人々の中でしか生きていけないのだ。振り返ると、ビルとビルの間から、皇居の森は鬱蒼と、相変わらず静かな様子だ。今私がそこにいた場所は、東京でもとても落ち着いていると思った。…
高架下を抜け、碁盤の目のような街に入る。相変わらず人は多い、その街の中を、ただひたすら歩く。ほどなく目的の店にたどり着く。