「寂しいねぇ…」
「でも、それでもまだ何軒かは昔から続いてるお店もありますし」
「そうは言っても、でもねぇ…、やっぱり少なくなったよ。何、こう言っちゃあ悪いが、やれブランドだ何だって、ああいう店はダメだねぇ」
「…」
「ツンと澄ましていやがる。こっちが、ちょっと拝見しようったって、店の入口のところで澄ました顔が立って居やがると、もうィヤんなっちゃう。あれじゃぁナンボなんだって、入ろうと思わんよ。第一、若い人間が多すぎる。騒々しくてかなわないねぇ」
おばあちゃんは笑って聞いている。奥さんの方でも口を挟まないでいる。
「その点、お宅はいいねぇ。変わらないねぇ。ほんと、頑張って下さいよ。この老いぼれがいつでも来れるようなトコが、どんどん無くなっちゃって。ねぇ」
「…ありがとうございます。本当に、そう言って頂けるだけで、もう…」
「いや、なに…。お前もそうだろう?」
奥さんは笑っている。そうして、夫の方を向いて、「私は、ブランドのお店も好きよ。若い人がたくさんいるのも。それに、騒々しいのも、元気があっていいじゃない。ちょっとばかし馴染みのお店がなくなったって、すぐに新しいお店が出来て、そうして人気が出ればそれに越したこと無いわ。そうやって、この街も若返るってものよ、ねぇ」
今度は、奥さんの方でおばあちゃんに同意を求める。
おばあちゃんは、微笑みながら、同意を示すように軽くうなずく。それを見て、夫の方も笑いながら「だからお前はダメなんだよ、まったく、もう」
三人共に、少しも厭味ったらしいところの無い、良い会話だなと思った。それから少しして、夫婦は席を立った。奥さんが勘定をすませる、その間に、夫の方はドアのところでコートを着て、
「また来るよ」
「ぜひ、またお待ちしております」
奥さんを残して、先に出て行った。
後に続いて奥さんが店を出たとき、ガラス越しに見える店の前で、二人が腕を組むのが見えた。一つの傘の下で、お互いが寄り添いながら。これもいい光景だった。