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「…だから私は、こう思うんですよ」
一息ついて、大場が奥の相沢達のいる傍に来た時、話題は映画から離れていた。
「その画家さんはきっと、その瞬間までそんな、あなたに話したようなことを微塵も意識の表面には上らせていなかったと思う。それこそ、あなたの話を聞いたその時になって、初めて、それまで無意識の底の底に秘められていたことが、表面に躍り出たんだと思います。その人の魂が、あなたという人間に感化されて、目を覚ましたんだと」
「じゃあ、私みたいな普通の人でも、あの人になにかプレゼント出来たのかしら?」
「私は、そう思いますよ」
「…そうだと嬉しいな」
聞こうとしなくとも、二人の会話は大場の耳まで自然に届いた。大場も敢えて耳を塞ごうとは思わなかった。また、その必要も感じなかった。
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「…私も、今日は上野公園に行ったんですけどね、そこで、学生が、たくさん、絵を描いているのに出くわしたんです。」