芭蕉

梅若万三郎師の<芭蕉>を、先日、観た。その時のことを思い出す。

初めて、<芭蕉>の世界に入ることができたように思う。

 

万三郎師の、緑色の袴は、芭蕉

白色の、長絹は、雪。この白色が、舞台の色と同じで、まるで、装束も含めた、雪が降り積もる世界で、芭蕉葉がそこに存在しているような、そういうことだったのだろうと思う。

 

詞章の意味を追わないで、ただ、私の眼に映すことのできる光景に、集中したら、雪の中の芭蕉という非現実の存在が、月光の中で真実の存在となる。風、音、これらの世界を、月影が明るく照らす。そこでは、全てが真実となる。

 

まるで<姨捨>のよう。

長絹の白、舞台の白木、その中に、緑の袴、緑の松

 

芭蕉がかぶる雪が、月影に照らされることで、光の世界となる。