大学の部活の後輩の訃報が届いた。

彼女とはもう15年近く会っていなかった。この過ぎ去った時間が夢のように思えた。

私は、大学で能の稽古をする部活に入っていた。その部活では三回生でようやく自分の舞いたい仕舞を選ぶことができる。私は班女舞アトを選んだ。この能が私はとても好きだった。

私が大学を卒業した次の年、三回生になった彼女は班女舞アトを選んだ。彼女がこの曲を選択したことが私にはとても嬉しかった。卒業してもそのうち教えにいくよと言っていた。

しかし彼女がこの曲を選んでくれたことを嬉しく思う気持ちは、結局、伝えられずじまいだった。卒業後に教えにいくという約束も果たさなかった。私が生来持つ何ごとも面倒がる性格が、そんな結果を招いた。

彼女は3年近く病床に伏せっていたと聞いた。私の記憶の中で学生のままの彼女が、それからの人生を歩む中でどのようであったのか、詳らかには知らない。ただ、私がこうして自分の人生を生きているこの同じ時間に、別の場所で、彼女のように、私がその人を知っているのに、その人がどう生きているのかは知らず、よほどのきっかけがなければ知ろうとすることもない人の人生があることについて、そしてようやくその人のことを思えた時にはもうすでにその人はこの世の人でなかったということについて、ヒリヒリとした痛みのようなものを感じた。