相沢は、歌を聴くことが好きだった。東京に住んでいた頃、MySpaceから適当に検索して好きになる歌と出会えたら、その歌を聴きながら自分自身の創作にふけった。書くことは、歌を聴くことで加速された。相沢にとって、歌は、小説の背後に存在するものだった。

山では、風が音楽だった。風のリズムが、創作の下敷きとなった。
そうして、山にこもって二ヶ月経つころ、ようやく己の創作の形や方向性が、甚だ漠然としたものではあるが、おぼろげに抱けるようになった。

風、声の無い歌。