2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

じゃあ、女の人は何? 夫の心にいつもある女の影は、なんだと言うのだろう。私では決して代わる事の出来ないその女の役割は、夫にとって唯の愛情の他に何があるのだろうか? 何を苦しんでいるのか。 なぜ私には何も言ってくれないのだろうか。 私にはもう夫…

優しかった夫の横顔。彼は何か言っている。 「僕は小説を書きたいんだ…」 唐突に思いだした。夫は小説を書きたかった。 ずいぶん長い事忘れていた。それに、結婚してしばらくしたら、そんなことを聞かなくなった。夫はそのことに関して何も言わなくなっていた。…

堀の濁った水の中を泳ぐ、魚の影が見える。 頭を頂点にして、きれいな三角が水面に描かれる。裾を広げながら、その三角は前に進んでいく。ゆっくりと、それでいて迷いなく。人間もこんなふうであればいいのにと思う。でも、いろんな事が多すぎて、こんなふう…

何の為に私は生きているのだろうか。 夢、という言葉がよぎる。しかし、その言葉は私の中で何らの響きも伝えてはこない。私は今、一人の生活者だ。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ、その日その日をやり過ごすだけで一杯だ。夫に対してすらも、ただ私から…

*** ここら辺りで働く若い女性達とすれ違う。楽しそうに会話しながら歩いている。彼女たちも、今、食事から職場へ戻る途中なのだろう。皆、清潔そうで美しい装いをしている。特に、髪の感じが良いと思う。長い時間を、男性達と仕事を共にしているからなのだ…

寒い。ひどく寒い。さっきまでの暖かさが嘘みたいに、寒い。 空気が乾いている。遠くまでよく見通せる。気付けば、周りの人達も足早になっている。皆、どこかに行く途中としてこの公園にいる。私もどこかに行きたいと思う。 結局、この駅で降りても公園に行…

ふと。 長いこと座っていたようで、いつの間にか広がりつつある寒々しさに、現実世界に引き戻される。雲も若干目立つようになった。演奏はまだ続いているが、しかし私は席を立つ。そろそろ行こうと思う。とりあえず、どこ行くというあてもなく歩き出すことに…

皆、様々な方を向いていた。それぞれの対象に向きあい、そして、一心に自分たちの画に挑んでいた。 「自分だって、何か…」 ここでもまた同じ事を思う。いつも、言葉にならないだけで常に同じことを思っているのかもしれない。だが、思うだけで、そこから一歩…

考えるのをやめたら、電車はいつの間にか、降りるつもりでいた駅を過ぎていた。この時間帯は快速運転になっており、目的の駅は通過駅だった事に気づいた。もうすでに三駅離れており、反対方向へ乗り換えるのも面倒だったし、それほどこだわりもなかったので…

改札を抜けてホームへの階段を降りると、電車はすぐにやって来た。周囲の乗客の様子から、今日は平日だという事を改めて思った。向かいの席でパソコンを睨んでいる若い営業マン風の男を見て、後ろめたい気持ちも少しした。しかし、そんなことも直に忘れた。 …

駅に向かう。

そういえば、この街の大通りを北の端から眺めた時、ビルの高さがそろっているのも、そっくりだった。四条通を、八坂神社の門の下から眺めた時夕焼けがきれいだった、ぼんやりとした光の底に、街全体が静かに沈んでいるような感じ、眠っているような感じで、…

もう昼だった。通りには、この付近の会社の人達だと思うが、何人も、連れだって歩いている。皆、昼食に向かっているのだろう。朝方よりも、少し雲まじりの空だったが、それでも晴れには充分な日の光りの量だった。私は、まだしばらくはこの空の下にいたいと…

こんな目をしている人を、他にも、私は知っているように思った。でも、誰だかは思い出せない。それは、遠い過去からの記憶のようだった。 *** 「私も、この絵の続きを想像しています。でも、見えない…」 画家は、そう呟いたようだった。小さな声だった。最初…

それにしても、変わった雰囲気を持つ絵だった。いつまでも、絵の前に立ち尽くしていたい気がした。 私以外に、誰も来ないのが不思議だった。路地の、少し奥まったところにあるとはいえ、他の画廊と遜色のない場所で、ここらあたりにあるのは、どこも同じよう…

自分が描いたものが、わからないのだろうか。そういうものなのだろうか。

懐かしかった。 目次を目で追って、「菜穂子」というところで止まった。あぁ、これも読んだことあるな、大学生の頃だった。ある女の面影と共に、その記憶が呼び起こされた。その女は、もう二度と会うことの無い女だった。そうして、長い髪を持った女だった。…

鞄に入れてきた小説は、久しぶりに読む気になった、赤い表紙の堀辰雄集だった。コーヒーを飲みながら、ページをめくる。

新聞に目を通すと、悲惨なニュースばかりだった。 中東の小さな町で、たくさんの人が死んだ。相沢も名前を知っている大きな会社が倒産した。政治家が自殺した。 もう沢山だった。自分には関係ないこととは思えなかった。一刻も早く、やめてほしいと思った。…

平日の朝、街は早足で歩く人ばかりだ。相沢は、そんな中を、休日いつも行く喫茶店に向かってゆっくりと歩いた。喫茶店に入ると、いつもの男の店員がはじめは「おや?」という顔をし、それでもすぐに、いらっしゃいませと言って席に案内してくれた。他に客は…

その日は、穏やかな冬の陽気だった。太陽の光が澄んでいた。会社に電話すると、簡単に休みが取れた。電話口で上司に体調を心配され、少し心が痛んだ。 外に出ると、思ったよりも風がある。それでも暖かい。

自分を投げ込む、という事。 *** 酒飲んで帰った晩、シャワーを浴びた後、洗濯物を干していたら、ふと、このまま誰にも好かれることなく終わるんじゃないか、と思った。風の強い夜で、雲が、月をかすめて速く移動していた。街の音が騒々しかった。 *** 次の…