2009-02-01から1ヶ月間の記事一覧

静かに食べていると、店内には、私の他には、夫婦らしき男女が一組、あとは、この店のアルバイトの女性に、レジのおばあちゃん。時折、夫婦がぼそぼそと話す他には、誰も何も話さない。この夫婦は既に食事は終わっており、コーヒーを飲んでいるところだった…

ドアを開ける。いつものように、おばあちゃんがまず迎えてくれる。少し雨に濡れたコートを、ドアのところでハンガーにかけ、振り返ると、店内は空いている。私は、奥の4人掛けのテーブルに案内される。一人でそこに座る。メニューを覗き込むと、いつもと変…

この街では、いつも行く店がある。小さな洋食屋で、店内はもっとこじんまりしている。一人、会計台のいすに座っており、いつ行っても、同じ調子で迎えてくれる、そのお婆さんとは一度も話したことはないが、優しそうな、いかにも「おばあちゃん」といった感…

*** ふと、空腹になっている自分に気が付いた。 何か食べなきゃと思った。そういえば、お昼まだだった。昔から、お腹がすけば、もう、それ以外の事を考えていられない性質だった。今日はたくさん食べたい、と思った。そう思えば思うほど、一層、痛いくらいお…

しかしそれで金を得ることが出来るのか。誰かの評価を得ることが出来るのか。書き続けることが許されるのか。そうしてそれよりも何よりも、相沢に、本当に、何か物語と言いきれる作品を創ることが出来るのか。まだなにも出来ていない。そして、もうすでに、…

踏みとどまることが出来るのだろうか。 この世界に踏みとどまるすべを持っているのだろうか。ちゃんと生きていけるのだろうか。 …小説を書くことで。 小説を書いていきたい。

相沢は考える。 喰っていく必要があるのは間違いない事で、決して、のたれ死ぬようなことがあってはならない。誰にも迷惑をかけてはならない。自分の力で、「ちゃんと」生きていけるようでなくてはならない。 それで。 それで、私に何が出来ると言うのか。

店の中は混んでいたが、奥の壁際に一つだけ空いてる席があったので、そこに腰かけて、注文を聞きに来るのをのを待った。4人掛けのテーブル席に一人で座って。 若い女性の店員がすぐ来た。髪型が素敵だと思った。ブレンドを頼んだ。店員が置いて行った水は、…

*** 時々行く映画館のすぐそばに、その喫茶店はあった。

その同じ時期のある朝、湖の上空を一面に灰色の雲が覆っていた。 それを受けて湖面は鈍く光っていた。 その狭い砂浜を私は一人で歩いていた。四月から進学が決まった大学は、家から通える距離にあったから、これからもずっとこの大好きな湖はそばにあること…

周りはいつも静かだった。 放課後の図書館で本を借りるとき、新任の図書の先生はきれいな人だった。同じ高校の同級生の男子のお姉さんだった。私はその先生の事が好きで、よく話に行った。静かに囁くように喋る先生から話を聞けるのが、楽しかった。例えば大…

皇居から東向きに、東京駅の方へ真っ直ぐに広い通りが延びている。通りの両側には立派な並木がある。葉は落ち、既に風に浚われており、道路上にはほんの少しも残っていない。私はそこにある大きな車止めに腰かける。しばらくの間、まっすぐと駅を眺めている…

若い父親の必死な表情を見ていて、いいな、と思った。 良い父親だということが、必死な表情は素振りを見ていてよく伝わってきた。きっと幸せな家庭なんだ。奥さんも子供も幸せなんだろう。ほんとうに、ちゃんとした一家なのだろうと思った。 私は一人で歩い…

*** 門の隅に、白人の外国人夫婦とその子供がいる。何かが起きたようで、父親が、男の子の背中をさすっている。母親は、子供の頭を抱きしめている。門を出たところの地面に、嘔吐物が撒き散らばっていて、警備員が、掃除道具を持って駆けつけてきた。 子ども…

誰かに会いたい。 知らない誰かに。そして、どこか私の知らない場所に連れていってほしい。ここはつまらない。でも、自分以外の誰かは、きっと何か素晴らしい世界を知っている。ここでは、知らないのは自分だけ。自分だけが、何も出来なくて悶々としている。…

人に会いたいと、そう思って歩いていても、人に会えない。これはどこも変わらない。

本当にたくさんの人だ。

何か食べたいと思ったので、駅からすぐの安いそば屋に行く。席はすべて埋まっていたので、しばらく待った。それでも五分ほどだった。ここに来た人が大抵食べるいつものそばを頼む。一分で出来る。どこがどうという訳でもないが、こうして気軽に食べることの…

私はこれまで人と深い関わりを持たずに生きてきた。それでも充分だと思っていた。でも実際はそうじゃなかった。私はある女性と深くかかわりたいと思った。深く関わりたいと思った時、しかしその時既に、彼女は私の前から去る決心をしていた。そうして自分で…

孤独ではないのだと思う。それぞれが孤独を抱えながら、それでも隣には人がいる。隣人の物語の中に参加できないかもしれないが、それでも、ちょっとした気遣いをする、そうすれば、人として触れ合う事が出来るのではないだろうか。だからホッとできるのでは…

しかし、ここにいる皆は孤独なのだろうか?

*** しばらくは、一度も下りたことのない駅名が続く。 山手線で、大きな円を描いている。円周から見える街並みは、どこもそれほど変わらない。いくつもの街が集まって、一つの大きなかたまりを成している。そこには中心がなく、ただ、周縁の連なりがあるだけ…