2021-07-01から1ヶ月間の記事一覧

駅からの帰り道、空が、この季節のこの時間に特有の色合いを帯びていた。夕陽からくる紫と赤とが、少し積乱雲めいた分厚い雲をまだらに染め、雲の向こうの空の、色褪せたような青と混じりあい、なんとも言えない色調で、それはまるで切なさを絵に描いたよう…

通勤の電車で高校生と乗り合わす。私にも、彼らのようなときがあったなあと思う。彼らぐらいのとき、私は、自分の「今」が嫌でたまらなかった。自分の醜さと格闘しているようであった。それは痛みでもあった。重圧でもあった。どこかに捨て去ることができた…

早朝、両親が遠くの街に住む妹の家にいった。私は、二人を見送った後、洗濯物をほし、風呂掃除をし、それから眼鏡を買いに車で出かけた。 これまでフレームなしだったから、次はありのを選んだ。5年前からかけている眼鏡のレンズが、気づかないうちに黄色が…

いつもより遅くなった駅からの帰り道、空気に、もはや水分が含まれていないのを感じた。いよいよ梅雨明けだと思った。夜風が心地よかった。 今日は電車で、職場のある駅を過ぎた向こうにある、遠くの都会まで行った。いつもより長い時間を電車に乗っていると…

梅雨も極まった。水分を含んだ空気が、歩く体にまとわりつく。そのうち、体の奥からの汗と、空気中の湿気が混ざり合って、歩くのが泳いでいるようだ。 仕事を終えて、まだ明るいうちに帰る、夕方の空には厚い雲と、そこから重たい空気が垂れ下がって、地上の…

井伊文子さんが書き置かれたものと、私がはじめて出会った時、もはやすでに、彼女は亡くなられていた。 それでも、若い日から晩年にかけて文子さんが残した文章を読むにつれ、そこから偲ばれる人柄に対する、こいごころにも似た憧憬を、私は強く持つのであっ…