熱いシャワーを浴びた後、ベランダの洗濯物をといれるときの、夜風の心地よさ、その時のような感じ。彼女がいるときはいつもそうで、彼女が、ただそこにいれば、それだけでもう大丈夫なのだ。やさしい何かに撫でられているような気分になれるのだ。
暗い店内では、3組の男女がひっそりと酒を飲んでいた。私はギムレットを注文し、彼女はマンハッタンを注文した。一緒に出てきたところで、久しぶりの乾杯をした。
「その後、元気にしてた?」一口飲み、私から口を開いた。
「まぁ、ね」
「今回は、観光?」
「うん。有給取って」
「そう。」
彼女に聞いてほしい事は、山ほどあった。この東京で、私はこんなに素晴らしい経験をしてるんだ、卒業してこんなに変ったんだと、報告したいことが、本当にたくさんあった。どれから話せばいいのか、わからないくらいに。
「ねぇ。ところで、卒業後何か面白い事はあった?」
「…。うん、まあね」
「何?」
「…うーん。それよりも、あなたの話を聞かせてよ」
「あぁ、…もちろんあったよ。死んじゃうくらいにすごい経験が。何回も生まれ変わったような気がする」
「へぇ、そうなの」
「うん」あれだ。このあいだ観た、能の話をまずしよう。
「ついに観ちゃったんだ。関寺小町」