皇居から東向きに、東京駅の方へ真っ直ぐに広い通りが延びている。通りの両側には立派な並木がある。葉は落ち、既に風に浚われており、道路上にはほんの少しも残っていない。私はそこにある大きな車止めに腰かける。しばらくの間、まっすぐと駅を眺めていると、時折、人が目の前を横切る。休みの日に比べると少ないが、それでもほとんどがジョギングで、皆、おめかしをしている。この都会では、ジョギングと言えども格好には気を使っている。
座っていても石の冷たさは感じない。目の前をランナーや自動車が通り過ぎるが、誰ひとり私に気を留める者はいない。それは当然のことで、私の方でも誰にも気を留めない。それぞれがそれぞれの事をするだけで、それでいいのだ。私と彼らは違うのだから。
小さい頃、今、目の前にある以外に世界はないのだと思う瞬間がよくあった。自分が見ていないところで世界は暗闇で、そこでは誰も存在していないのだ、皆が存在するのは自分と対している時だけなんだと、そう、思っていた。この世界で本当にに存在するのは自分だけなんだと思っていた。家族も友達も含めて。
ところが、いつの間にかそんなことを考えることがないようになっていた。高校生の頃だと思う。同時に、小説をたくさん読むようになった。その二つに関係があるのかは知らないが、でも、その二つはほとんど同時に起こったように思える。
仲の良い友達もできた。その時できた友達とは、今でも連絡を取り合っている。ほとんど会う事もないが、それでもいつも気にかけている。でも、異性に対してはだめだった。恥ずかしくて、照れくさくて、なかなかまともに会話する事が出来なかった。時々話しかけられても、ほとんど会話にならなかった。また、話したいとも思わなかった。当時を振り返ると、読書と同性の友達に囲まれた、静かな青春を送っていた。