2009-01-01から1年間の記事一覧

懐かしかった。 目次を目で追って、「菜穂子」というところで止まった。あぁ、これも読んだことあるな、大学生の頃だった。ある女の面影と共に、その記憶が呼び起こされた。その女は、もう二度と会うことの無い女だった。そうして、長い髪を持った女だった。…

鞄に入れてきた小説は、久しぶりに読む気になった、赤い表紙の堀辰雄集だった。コーヒーを飲みながら、ページをめくる。

新聞に目を通すと、悲惨なニュースばかりだった。 中東の小さな町で、たくさんの人が死んだ。相沢も名前を知っている大きな会社が倒産した。政治家が自殺した。 もう沢山だった。自分には関係ないこととは思えなかった。一刻も早く、やめてほしいと思った。…

平日の朝、街は早足で歩く人ばかりだ。相沢は、そんな中を、休日いつも行く喫茶店に向かってゆっくりと歩いた。喫茶店に入ると、いつもの男の店員がはじめは「おや?」という顔をし、それでもすぐに、いらっしゃいませと言って席に案内してくれた。他に客は…

その日は、穏やかな冬の陽気だった。太陽の光が澄んでいた。会社に電話すると、簡単に休みが取れた。電話口で上司に体調を心配され、少し心が痛んだ。 外に出ると、思ったよりも風がある。それでも暖かい。

自分を投げ込む、という事。 *** 酒飲んで帰った晩、シャワーを浴びた後、洗濯物を干していたら、ふと、このまま誰にも好かれることなく終わるんじゃないか、と思った。風の強い夜で、雲が、月をかすめて速く移動していた。街の音が騒々しかった。 *** 次の…