街は、丘陵の上に成り立っている。起伏を登り下りし、高い地点からは街全体を見渡せ、低いところに至ると、建物の屋根越しに、遠く、高い建物を望むことになる。風景が、そのようにコロコロ変わり、歩いていて楽しい。住宅街を抜けると、道は、そのまま古ぼけた商店街になった。バス停で、人がたくさん並んでいる。買物の老人が多い。
「あれ、何だろう?」
「え、何?」
「あの、右の方に、遠くに見える高い建物」
夫が指さす方向に、相当古そうな建物が、三つ並んでいた。そして、かなり大きそうな。
「さぁ、何だろう。教会かしら?」
「教会、そう言われてみればそんな気も」
「気になる?ちょっと遠そうだけど」
「そうだね、面白そうだ。行ってみようか。特に、目的地もなかったから」
「公園は?」
「公園はまたの機会に、ね」
目的の無い散歩が好きだ。目的があると、それはもう散歩ではないと思う。でも、それはそれで楽しい。私は、夫に従う。
この道が、方向から、どうやら目指す建物に向かっているようなので、そのまま歩くことにした。商店街を抜けると、また、住宅地になり、犬の散歩が目立つようになる。シェパードを連れた父子とすれ違い、ジョギングの女性に追い越される。歩道が広いので、私達は並んで歩く。木の葉を踏みつける音が、やはり心地よい。本当に、気持の良い天気。全てが洗われる。
「ねぇ、街全体が海に面しているのかと思っていたけど、そうでもないのね」
「そうだね、山と海に挟まれた神戸とは、だいぶ違うね」
「そうなの。似たような町名があるから、同じかと思っていたけど、違うのね。やっぱり、山が見えないと、なんかな」
結婚してこちらに来てから、私は、何となくこの土地の風景になじむことが出来ずにいた。その理由に、今気がついた。山が、見渡せる範囲に無かったからだ。