相沢は、そこで、四枚の絵に出会った。
一枚目は、「幽霊の街」という題だった。誰もいない街、しかし、建物の開いた窓から、痕跡によって何者かの存在が示されるような街だった。
二枚目は、湖を挟んで遠くにぽつんと林が見渡せる、それ以外は何もない大地が広がっている絵。題名は「世界の終り」、地平線で大地と灰色の空が交りあっていた。
三枚目は、閉散とした室内で窓辺から外を窺う女性が立っている絵。女性は決してこちらを振り向かない。「幽霊の目」という題だった。
そして四枚目。描かれた室内には誰もいなかった。また画家の不在を思わせるようなその絵は、ただ、「視点」によって見られただけのようだった。題名にはこう記されていた、「そして、誰もいなくなった」。
北欧の小さな国の、聞いたこともない名前の画家だった。しかし、その画家の表現は、相沢にとって、他の誰でもなく、自分こそを直接に指し示しているかのように思えた。つまり、ここに描かれているのは相沢自身の心象風景でもあった。長く見続ければ見続ける程、その絵の世界に取り込まれていった。まったくの他人の表現を通過して自分の心と向き合う、あまりにも疲れ、しばらく座っていた展示室のベンチで溜息が出た。
「俺は孤独だ」
それは、相沢がそこから目をそらし続け、直視することを拒み続けた世界だった。しかし、今こそ、それと向き合う事が出来る気がした。この、静寂の内で、孤独の中で、ある不思議な響きを伝えてくれる絵と一緒でなら、それがどんな孤独であろうとも向き合う事が出来るように思った。なぜならその響きによって、心地よさにも似た反応が、自分の中で生じるのを感じられたからだ。
     ***
…胎内の孤独。
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それまで、相沢は絵をあまり見ない人であった。絵によってこんなことを感じるのは初めてだった。絵にも響きがあった。