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しばらくは、一度も下りたことのない駅名が続く。
山手線で、大きな円を描いている。円周から見える街並みは、どこもそれほど変わらない。いくつもの街が集まって、一つの大きなかたまりを成している。そこには中心がなく、ただ、周縁の連なりがあるだけだ。
電車内は混んだり空いたりを繰り返す。皆、何かの目的を持って移動しているのだろう、そういう人にとって、電車はきっと居場所ではなく、ただの道と同じなのだろう。
私は山手線が好きだ。ここは、東京で実感できる数少ない私の居場所だ。どこでもない場所、常に名前を変える場所。ずっと円を描き続けるこの場所で、なぜだろう、不思議と心が落ち着く。
なぜなんだろう。私は、山手線に居るのがすごく好きだ。
隣に若い女性が座る。目の前に老人が立っている。席を変わろうと思ったら、他に開いている席を見つけて、老人は私の前を去って行った。私は安心する。この辺りは比較的空いているのだ。
人と人は、電車内では決して出会いはしない。ただ、隣あうだけで、隣あったもの通しは、永遠の他人だ。それぞれが、それぞれの時間を生きている。ここでは、皆がそれぞれの独立した世界を背後に持ち運んで、通りすがっている。