「でも、あなたは、今私は変わらないと言ったけど、それでも、なんというか、大きくなったところがあるように思う。大人になった、優しくなったような気がする。変わらない部分と、変わった部分が、ないまぜになって、時々顔を覗かす変わった部分が、私には、とても大きく感じられる。それって、とても素敵なことだと思う。上手く言えないけど。
どこがどう大きくなったかは、上手く言えないけど、さっき通りを歩くとき、私を守ってくれているような気がした。ちょっとした距離感や、ここに入る時にも、階段を降りながら、前をゆくあなたは、とても大きかった。なぜだか知らないけど、あなたは、私の知っている相沢君であって、私の知らない相沢と言う人でもあるような、そんな気になった」
私は、きっと変わったのだろう。でも、
「僕は、何も変わっていないよ。変わったように見えるのは、―さんが変わったからじゃない?」
「…」
「それでも僕は、何かをしようとしないんだ。決して。ある部分で、小説を読むだけに、能を観るだけに、映画を観るだけに、音楽を聴くだけに、満足のようなものを感じてしまっているときがあって、そう気づいたときの、あの弱さに、僕は心底やになっちゃうんだ。もう、耐えられない。でも、かといって何かを始めるわけでもない。何も出来ない。本当に、バカだ」
     ***
「ねぇ」
「何?」
辺りがざわつき始めている。
「…。やっぱり、あなたは書くべきだと、思う。これは、二年前にも言ったことだけど」
「え?」
「あなたは、書くべきなんだわ。なんでもいいから、とにかく書くのよ。ねぇ、書いて。私は読んでみたい、あなたが書いたものを」